連載企画
【ボールのないサッカーのはなし #3】うまくいくと、何も起きない仕事
名簿の欄を、もう一度、上から数える。学年、氏名、緊急連絡先。抜けがあれば、大会に出られない。
会場の場所と、集合の時間も確認する。書類を、一枚ずつそろえる。
締切は、今日の日中。
机の上には、今年の大会要項と、去年の様式のコピーが並んでいる。並べて見比べないと、どこが変わったか分からない。
窓の外は、まだ決まっていない空模様だ。
この作業は、今日だけではありません。大会に申し込むたびに、同じことを繰り返します。
締切が違う。様式が違う。集合場所の決まりも違う。学年やカテゴリーで、出す書類まで変わります。前の年と同じつもりで進めると、途中で合わなくなる。だから、去年の書類を並べて見比べます。
動く時間も、選べません。締切は平日の日中に来ます。天候の判断は、当日の朝に来ます。お問い合わせは、いつ届くか分かりません。こちらの都合では、決められない仕事です。
集合の連絡は、こちらで文章にして、送ります。お問い合わせが来れば、一つずつ、返します。
この仕事は、うまくいくと何も起きません。
申し込みが間に合えば、大会に出られる。名簿が正しければ、誰も何も言わない。連絡が届いていれば、選手は普通に集まる。試合が始まって、終わる。
目に見えるのは、失敗したときです。
大会に出られない。集合場所が分からない。持ち物が足りない。そこで初めて、その仕事があったと分かります。
試合には、材料があります。点を取った。守り切った。順位が上がった。事務の仕事には、それがありません。「今週も何も起きませんでした」では、話が続きません。
私がスタッフに礼を言うのは、たいてい何かあったあとです。トラブルを収めてもらったとき。締切に間に合わせてもらったとき。何もなかった週については、これまで何も言ってきませんでした。
けれど、クラブは何もない週の積み重ねで続いています。
大きなことが起きた週より、何も起きなかった週のほうが、ずっと多い。その週を毎回つくっている人がいます。こちらから見に行かないと、気づきません。
同じことは、クラブの外にもあるのだと思います。ご家庭でも、何ごともなく一日が終わることがあります。その一日も、どなたかが組み立てています。
できることは二つあると思っています。
一つは、何もなかった週にも私たちから声をかけることです。何かあったときだけ礼を言う形を、やめる。ここは、まだ十分ではありません。
もう一つは、段取りを一人に寄せないことです。大会の申込の手順も、当日の連絡の型も、クラブとして書いて残す。誰かが休んでも回る形にしておきます。
見えないところに、こうした仕事があります。それをお伝えしたくて、今回を書きました。
ボールが動き出す前から、その日のサッカーは始まっています。
皆さまの毎日にも、何ごともなく終わっていく仕事があるかもしれません。それは、どなたが積み重ねているものでしょうか。よければ、コメント欄で教えてください。私たちも、まだその全部を知っているわけではありません。
次回は、送迎の時間について書くつもりです。
この問いを、一緒に考える仲間へ
何も起きない一週間は、誰かがつくっています。
カシマアカデミーでは、子どもたちと地域のこれからを一緒につくる仲間を探しています。完成した答えを持っている必要はありません。私たちが大切にしていることに少しでも重なるものがあれば、まずは気軽にお声がけください。
同じ問いを持つ仲間と、明日も次の一歩に挑戦します。
文責川上翔太
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